衣擦れに似た音が、絶え間なく耳に届いてくる。
目覚めると外はまだ薄暗く、音は昨夜から降り続いている雨だった。
雨の匂いに混じるかすかな薫りと温もりを求めて、傍で眠っていた筈の人に手を伸ばした。
そこには既に温もりの欠片も無く、いつものことと慣れている筈なのに
次第に大きくなる雨音が私の心を騒がせた。
覚醒に慣れない躯を無理矢理起こし、細く開いている襖をそっと開けた。
雨戸をすこしだけ開け、縁側に腰掛けている後ろ姿に可笑しいくらいに安堵する。
「…起こしてしまいましたか…?」

振り返り様、優しく微笑んで。
「ううん、雨…今日は止みそうにない、みたい」
言っても無駄と知りながら、そんな事を口にしていた。
「そうですね」
「望美さん」
今の私の顔を見られたくないから、背中にそっと凭れかかる。
頬に感じる温もりと薫りは、たしかに彼のものだ。
凭れるだけだったのに、それだけじゃ足りなくて腕を回してぎゅっと抱き締める。
いとも簡単に解かれてしまった手に指に、柔らかな感触が落とされて。
「今日は、雨が止みそうにありませんから ― 」
のんびりするのも悪くありませんね と言った頬に不意打ちのキスをする。
「雨が上がったから、って、出ていかないでくださいね」
言って後悔してももう遅かった。
ほんの一瞬、驚いて見開いた鳶色の瞳と淡い朱に染まったように見えた頬は
すぐに私の視界から消え去って。
それから私は、絶え間なく降り注ぐ雨のような彼の熱に包まれていった。
― 弁慶と甘修業 1 不意打ち
Special thanks…! illustration by ふぃん様
ゲーム中で数えるほどしか観られない「あの顔」を想定して書きました・笑
戻